【絵本】風が吹くとき (When the Wind Blows)

この本、ご存知でしょうか。

スノーマンで知られるイギリスの作家レイモンド・ブリッグズが1982年に出した、絵本、というよりはグラフィック・ノベルといわれるジャンルです。小さな子ども向けの絵本ではありません。



私は中学生くらいの時にはじめて読み、全部が理解できたわけではありませんが、大変な衝撃を受けたのを覚えています。あれから何十年か経って自分の国でまさか放射能の心配をするようになるとは思いませんでした。今も手元にあるボロボロになったこの本を最近もう一度読み直していたところです。

ちなみにこの題名は『マザーグース』の同名の詩から来ています。

ゆりかごが赤ちゃん入れて木にかかる。
風が吹くとゆりかご揺れる。
枝が折れるとゆりかご落ちる。
ゆりかごと一緒に赤ちゃん落ちる。

・・・というような詩です。

この本は、イギリスの田舎でのどかな暮らしを送る年金生活の夫婦についてのお話です。夫の方は毎日図書館で新聞を読んだりしていて、緊迫してきている世界情勢について気をもんでいますが、妻の方は世界情勢にもとんと興味はないようで、もっぱら家事にいそしむ静かな毎日です。

夫は図書館でもらってきた政府発行のパンフに忠実に、いざ核戦争が始まったときのためにいろいろな準備を始めます。家の中に小さなシェルターも作ります。妻の方は半分呆れつつ、相変わらずあまり興味はないようです。

ある朝、突然ラジオから恐ろしいニュースが流れます。残された時間は3分。


・・・3分・・・


『風が吹くとき』
(When the Wind Blows)


この後は説明を省きますが、幸せな田園風景が続くページの合間にサブリミナルのような暗いページ(その頃、ある海底では・・・など)があり、普通の生活に刻々と迫る抗えない大きな大きな力について描いています。あきれるほどに政府を信じて疑わない老夫婦に胸がしくしくと痛みます。

また、この原作は数年後にアニメ映画化もされました。音楽をピンク・フロイド(元)リーダーのロジャー・ウォーターズ、主題歌をデヴィッド・ボウイが担当、彼らがこの仕事を引き受けたということからも原作の影響力の大きさがうかがわれます。1987 年公開当時チェルノブイリ原発事故翌年のヨーロッパでは、イギリスを始め各国で大ヒットしました。

以下映画の一部です(英語)。
シェルターに入ってもなお、「ケーキがこげちゃう・・・」という妻の言葉が響きます。




また、この映画について以下のようなコメントが残されていたのでご紹介します。

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When I watched the film for the first time some years ago (somehow I didn't see it when I was a kid), I had to go home alone through the night and I heard some laughter out of bright open windows. People crossed the street, comin from clubs or going to clubs. It felt very strange... after watching this movie.

You really should watch it. I think, its one of the most important animated films ever made.

この映画を何年か前に始めて見終わって(子どものころにはなぜか見たことがなかった)、夜中に1人で家に帰った。

そしたらその帰り道に、明るく開いた窓から笑い声が聞こえてきた。人々はクラブから出てきたり、クラブに入ろうと道を横切ったりしていた。

それが、この映画を見た後には ・・・ とても不思議な気がした。

これは見ておくべき映画だ。今まで作られたアニメ映画の中でも最も重要なものだと思う。
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風が吹くとき [DVD]

原作者レイモンド・ブリッグズは、「(この作品を創ったのは) 反核運動のためでも政治意図によるのでもない」とも言っています。これを読んでどうとらえるかは、私たちにゆだねられているということでしょう。

この本はすべての図書館、すべての学校に置いて欲しい本だと思います。原発問題とか関係なく、人として知っておくべきことだと思うからです。

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『風が吹くとき』
 (When the Wind Blows)

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